六日町簡易裁判所 昭和41年(ろ)4号 判決 1966年8月05日
被告人 富所嘉幸
主文
被告人は無罪
理由
本件公訴事実の要旨は、
被告人は、昭和四十一年六月三日午後五時五十五分ころ、新潟県北魚沼郡堀之内町大字堀之内四千三十三番地附近の交差点(国道十七号線と堀之内駅前通の十字路)において、自動二輪車を運転して大型貨物自動車を追い越したものであるというのである。
そこで審按するに、被告人は当公判廷において右公訴事実に符合する供述をして居るけれども、本件犯行を現認したと称する司法巡査野田巌も、当公判廷において証人として、実際に自ら現認したものではなく、或る町民からの事故報告に基いて現場に赴き、その場に居た被告人及び上村重信より事情聴取した後、同人等の供述に基き現認報告書を作成したものであると供述し、又証人上村重信は、当時同人の後方約三十米の地点を進行(北方に向け)して近寄る大型貨物自動車のあることをバックミラーで知つたけれども、その後右貨物自動車がどのように進行したものか、もしくは、被告人が本件交差点において、果して前記貨物自動車を追い越したものかどうか知らないというのであるから、これらの証言をもつて直ちに被告人の公判廷における右自白の補強証拠となし得ない。他に本件公訴事実を認めるに足る証拠は何もない。以上認定した通り本件は被告人の自白が被告人に不利益な唯一の証拠である場合に当るから、これをもつて被告人を有罪とすることはできない。
そこで本件公訴事実は、結局犯罪の証明がないものと認め、刑事訴訟法第三百三十六条に従つて無罪の言渡をすることとし、主文のように判決する。
(裁判官 坪谷雄平)